2012/05/05

中国地方に建築旅に出る - 二日目

旅二日目。ロビーに8時集合し、下関市内の建物を見学に出発。

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一つ目は「下関市唐戸市場」、設計は池原義郎氏。これまでも氏の建物は多く見てきたが、用途としては美術館や体育館ばかりであった。池原氏の美的感覚が市場というある意味カオスティックな空間とどのように融合するのかが楽しみであった。
港沿いの幹線道路を走っていると、発見。外観はレンガ積。
別棟の立駐に車を止める。立駐と市場本棟とは渡り通路にて連絡している。


これが渡り。張弦梁にも似たこの構造は、他の作品でも良く見られる。ホントに構造が綺麗。実際に見たことはないが、カラトラヴァとかもこんな印象を受けるのだろうか。
本棟のデザインも、あらゆるところがシャープに設計されている。ほんとに線だらけ。まさに池原イズム。


そして市場の内部へ。
魚の骨のような、PC天井に圧倒される。参考情報曰く、スラブを軽くするために、力の流れに沿って軽量化していったらこのような有機的な形状になったそうだ。なぜか極軽量化されたミニ四駆を思い出した。構造力学にせよ、流体力学にせよ、流れにそってデザインすると、こんなにも力強く、美しく、深さのあるデザインになることを改めて感じる。それにしてもすげーなぁ。
地上階に市場が広がっており、2階レベルにそれを見下ろすように回廊がある。当然市場で買い物もできるし、それを回廊沿いに設置されたカウンターで食すことも可。ちょっとしたアミューズメントである。


外部スロープより屋上に上がる。屋上広場となっており、目の前の関門海峡に向かって、勾配が付いている。余計なディテールを極力排していることもあり、建物の存在を忘れ、川縁の丘に居る気分になる。
上部には大きな張弦梁がある。大きな人工物ではあるが、橋梁のイメージと重なり、風景としては違和感を感じない。芝もキレイに手入れされている。

これまで池原氏の作品をいくつか見てきたが、そのどれよりも土臭さを感じ、内外の曖昧さを感じる建物であった。それは市場という用途があったからなのは言うまでもないが、一見相反する池原思想がその用途と出会ったとき、(なんかエラそうだが)レベルの一つ上がった新しさを生み出しているようで、とても新鮮。(ただこの建物は10年以上前の竣工で決して新しいものではない)

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車で少し移動し、「下関市体育館」を見る。設計は坪井善勝。建築好きな人だったら誰もが知る丹下氏の名作「代々木体育館」や「聖カテドラル教会」の構造設計を担当した方であり、その方が意匠・構造両方を手掛けた作品。
やっぱり屋根が特徴的。3次元に曲げている。ちなみに屋根材はアルミ板を鱗のように張っているらしい。ということは、全体の形状は魚か?
内部は、小・中学校の体操の大会で使用中のため、チラ見しかできず。管理人の方に「建物見たいです」といったら、眉間にしわを寄せながら「ホントに建物?」と言われ、あっさりと断られる。
・・・そんなに怪しいかな、俺。そういえば、いつぞやかの飲み会で、とある人に「鈴木君ってAKBを追いかけているでしょ?」ってまともな顔で言われたこともある。太ってて、眼鏡で、カメラ持ってたら、そう見られるのか?

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ここから長距離移動。下関から広島へ。約250km。3時間

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広島一発目.三分一博志氏の「WoodEggお好み焼き館」.名前からも推測されるように、かの有名なおたふくソースの展示+研修施設.
もっと都心にあるのかとイメージしていたら、以外と郊外.工場地帯の一角に突然ある感じ.裏側にはおたふくソースの工場があり、その工場に併設されている施設.
構成は見たまま.ルーバーの帽子を被った建物.かっこいいがそれだけな気がする.何故だろう.
一応三分一氏の作品には"環境"というワードが必ず入っているが、決して環境建築家ではない.私個人の勝手な捕らえ方だが、いわゆるエンジニア的な環境、熱とか光とかをテーマにしているのではなく、広義の意味での環境、身体範囲から一つ外にある感覚の及ぶ範囲を環境と呼び、それを操作することで身体的に新たな感覚・感情を与えることを目指しているのだと思う.
だからこそ実物を見てそれを実感してみたかったが、どこかハリボテ的なルーバーの存在に少し違和感を感じ、また特に何か特別な感覚・感情を感じることができなかった.
残念ながら休館だったため内部をみることができなかったが、もしかすると内部には何か隠された装置があったのかもしれない.

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広島二発目.山本理顕氏の「広島市西消防署」.またルーバー.ちょっと胸焼け.
ルーバーやガラス張り、グレーチングの床など、全体的に透明なイメージを持った建物.従来の閉じた消防署からすると、いわゆる"市民に開かれた消防署"的なイメージが若干感じられるが、どうもソフトとうまく合致できていない.実際、内部を見学したが、ほとんど立ち入り不可.結局外部階段と外部廊下のようなところを歩いたのみで、様子すらうかがい知ることができない.残念.

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昼飯.広島といえば「広島焼き」.食べずにはいられない.
これまた恥ずかしながら、人生で初めての広島焼き.物知らずな私は、お好み焼きと若干混同していたが、まったくの別物だった.むしろ私はこちらの方が好み.

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お約束の「原爆ドーム」と「広島平和記念資料館」を見る.とりあえず見ただけ.焼け野原に都市としての軸をつくったという丹下氏の代表作品を実感し、うなずく.
それにしても人が多い.何かのイベントがあったらしく、とてもじゃないが、記念館に近づく気になれない.そんなわけで、内部は見ずにあっさりスルー.

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炎天下の最中、平和記念公園から徒歩20分.村野藤吾設計の「世界平和記念聖堂」にやっと到着.
美しい建物.宗教的な背景もあってか、教会としての静かな主張が感じられる荘厳な雰囲気の建物.私のボキャブラリーではうまく評価できない.けど名建築には間違いなし.
それにしても村野藤吾の作品は、穿つデザインのイメージがあったが、装飾的な表現のデザインもあることに関心.

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車で港方面へ移動.


谷口吉生市の広島市中環境局.やはり奇麗だね.すべてが計算されて"揃っている"奇麗さ.


湾に面している立地であり、建物の中央アトリウムを抜けて湾へ行くことができるようになっている.そ建物自身はそのほとんどがゴミ焼却のための機械設備で埋まっているが、その湾に抜ける中央通路がガラス張りのアトリウムとなっており、機械を見ながら、ゴミ焼却に関する展示を行うスペースとなっている.
機械かっけぇ~


アトリウムの終点から暗い通路へと移り、そこを抜けると広島湾を一望できるデッキがある.
どこまでが建築家からの提案なのかは不明だが、機械の見せ方や展示ブースの設置の仕方、通路を抜けたところの眺望空間など、何かを見せる業はさすがだと感じる.


湾側から振り返った外観.表裏ともデザインは共通.
展望デッキ部分は持ち出しになっており、大分ダイナミック.おそらくPCピースをプレストレスの鋼棒で緊欠させて持たせているのだろう.あまり見れる構造ではない.

全体的に整っていたし、展示空間としての奇麗さと機能は勉強できる部分が大きかった.ただゴミ処理場という箱物であることと、メタルな外装であることが、谷口氏の持ち味を半減させている気がする.池原氏の場合とは違い、やはり谷口氏は「石材を使用した美術館」が一番かもしれない.

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この時点で17時.日の入りまであと1時間半.車を走らせて、広島市の南側に隣接する呉市へ.
途中、渋滞にあう.歴史には疎いので詳しいことはわからんが、どうも清盛公にゆかりのある場所らしい.

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隈研吾氏の「呉市音戸市民センター」.どこにいっても隈氏の作品はある気がする.やっぱ売れっ子だなぁ.
大屋根と木縦格子が印象的な概観.ほかよりも長く出ている屋根はこの地域にある瓦らしい.サインも特徴的.つうかかわいい.
建物に近寄ってみると、少しカラフルな軒天が見え隠れ.


軒天の写真.唖然.なんというか、初めてみる表現、手法.最後まで何をしたかったのか、理解することができなかった.


外壁も少しだけアグレッシブ.ただ軒天のデザインに比べれば理解しやすい.ランダムに見える木ラインも、古民家によく見られる下見板張+押桟を現代的な表現に解釈しなおしたと思うとしっくりくる.ランダムなのも、風や海を近くに感じるこの地では違和感を感じない.ただ見る人の好みによっては、少しくどいかな.


手摺にもなっている木格子の納まり.縦支持材が表から見えないようにこだわったディテールにしているみたいだが、こんなことをしなくてももっとシンプルに納める方法はあったように思うが.


あいにく閉館時間を過ぎていたので本館は見学できず.ただ管理人のご好意で、別棟で併設されている公民館部分を見学させていただく.
圧巻.まさかのまさか.ここまで攻められると、良くぞというしかない.ただそれだけ.内部もディテールをこだわっている様子がいくつも見られたが、なんだか過剰に難しいディテールにしている気がして、少し残念.

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これで今日一日の見学は終了.ちょっと詰め込みすぎ.一日でこんなにみたのもはじめてかも知れない.次からは一日多くても3つぐらいにしよう.時間がとれないこともあるが、疲れが先行してしまい、自分の中での評価がぶれてしまう気がする.

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と、広島県内の宿へ車を走らせる予定だったが....

車を擦ったことをレンタカー屋に連絡するのを忘れたままだったので、やっと連絡.まぁ保険があるから大丈夫だと思ったら...「事故証明が必要です」とのこと.
...なんだそれ.

一般常識なのかもしれないが、物損事故でも自損事故でも、その場で警察を呼んで「事故を起こしましたよ」という証明書を作ってもらう必要があるらしい.

擦ったのは...昨日.場所は...下関.

やむを得なく下関に戻る.往復500kmのロス.

夜11時下関着.取りあえず宿にチェックインし、その後警察に連絡.
深夜に現地で警察の方と合流し、現場検証.
....何とか事故証明を発行してもらうことに.その変わりといってはなんだが、ありがたい説教をいただきました.反省.

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